借金返済に悩んだ場合、債務整理と自己破産の二択が頭に浮かぶかもしれません。自己破産も債務整理の一つの種類になります。しかしながら、他の債務整理とは自己破産は異なります。今回は自己破産と債務整理の違いについて紹介をしていきます。
自己破産と聞くとネガティブなイメージを持つのが一般的ですが、破産法という法律に守られた立派な権利です。権利行使を実行しないともったいないでしょう。
目次
債務整理の種類

- 任意整理
- 特定調停
- 民事再生(個人再生)
- 自己破産
この4種類があります。
債務整理の中でもっとも利用されているものは、任意整理です。そのため、一般的に債務整理というと任意整理を指すことになります。
そのぶん、こちらの高額な財産も処分しなければなりませんので、ハイリスクハイリターンな債務整理方法といえます。
その他の債務整理と自己破産の違い

他の債務整理(任意整理・特定調停・民事再生(個人再生))と自己破産の違いはどのような点にあるのか解説をしていきます。
任意整理について
任意整理については、債務整理=任意整理と考えられるほど、人気のある債務整理の方法になります。
そして、交渉は弁護士へ依頼をすることを強くおすすめします。
- 将来利息のカット
- 返済を3年~5年程度延長
この程度の債務整理しか効力を発揮しません。
つまり、将来発生する利息の免除と返済期間を3年~5年間延長をしてもらえる程度であり、借金の元本は1円も減りません。そのため、月々の返済額は少なくなりますが、リスケジュールをしてもらった期限内に完済をする必要があります。安定した収入がなければ、利用することは難しいでしょう。
また、信用情報機関の個人信用情報に金融事故を起こした者としてチェックがはいりますので、5年程度はブラックリスト入りします。ブラックリスト入りしますと、新規でクレジットカードが作れなくなったり、消費者金融業者から新規で借入をすることができなくなったりします。現在、クレジットカードを持っている場合、没収はされませんが、更新日に更新ができなくなる可能性があります。
そして、ブラックリスト入りするのは、3年~5年かけて借金を完済した日を起点に5年間なので通算で8年~10年はブラックリスト入りしていることになるわけです。
特定調停
特定調停は、任意整理の延長線上のもので、仲介に簡易裁判所を挟みます。そのほかは任意整理とさほど代わりがありません。そのため、弁護士に依頼をして任意整理をするのであれば、そこまで利用する機会はありません。
ただし、任意整理の交渉が難航した場合、交渉の場を簡易裁判所へ移して特定調停にするケースもあります。
簡易裁判所を利用するとはいいましても、官報には名前は載りません。
任意整理と同じ3年~5年程度はブラックリスト入りしてしまいます。

民事再生(個人再生)
個人再生は、裁判所へ申立てをすることでおこなうことのできる債務整理の方法の一つです。任意整理よりも強制力があり、自己破産よりは借金の減額幅が少なくなります。
個人再生を利用する人は、2つのパターンが考えられます。
- 任意整理では返済が厳しい
- 住宅ローンを守り、他の借金を返済したい
任意整理では返済が厳しい場合ですが、任意整理でおこなえるのは、利息のカットと返済期間の延長です。
しかも、これは債権者との交渉をして合意を得られなければできないものです。利息カットは許すけれど、返済期間の延長はなし。利息はカットしないけど、返済期間は延長してもいい、といった感じで条件を付ける消費者金融業者も多くいます。
そして、任意整理に応じてくれないケースもあります。
住宅ローンを守り、他の借金を返済したい
次に、住宅ローンを守り、他の借金を返済したいですが、民事再生(個人再生)には「住宅ローン特別条項」や「住宅ローン特則」と呼ばれるものがあります。
民事再生(個人再生)は原則、すべての債権者を対象に借金を減額させるのですが、住宅ローンを返済中に借金の減額をしてしまうと、抵当権という権利を行使されて住宅を競売にかけられてしまいます。
しかし、利用をすることで10年間はブラックリスト入りをしてしまいます。完済した時点が起点になりますので13年間、自動車ローンなどの審査通過や新しくクレジットカードを作るのが難しくなります。
また、手続きが非常に複雑であり弁護士のような法律の専門家が資料作成を制限期間内にしなければ、手続き一切が台無しになってしまいますので、間違っても、民事再生(個人再生)は個人でおこなおうとするのはやめておいた方がいいでしょう。
さらに、地方裁判所を利用しますので、官報に名前がのります。
自己破産
自己破産は、その他の債務整理とともに借金を整理する手続きですが、その他の債務整理と異なる点として、自身の財産の処分をする代わりに借金の全額免除があります。
そのためには、免責許可の決定を受ける必要があるのですが、免責許可の決定さえ受けてしまえば、すべての借金の返済義務がなくなるのです。後日請求されることもありませんし、お金ができたからといって後日返済する必要もありません。
また、地方裁判所ごとに処分する財産の基準が異なります。多くの地方裁判所では20万円基準を採用しており、財産を一つ一つ個別に鑑定をして価値が20万円を超えていれば換金処分となります。また、財産の総額が50万円を超えたら換金処分するという裁判所もあります。
管財事件の場合、予納金として50万円を裁判所に現金一括で納めなければなりません。同時廃止事件の場合は予納金として1万5000円、少額管財事件は20万円を裁判所へ納めなければ、自己破産の手続きは開始されません。
管財事件では、破産管財人という弁護士が選任される関係で、その弁護士への報酬として予納金が高額になります。破産管財人は財産を調査、処分換金をするなどの仕事が多いので無償だと誰もやりたがらない関係上、予納金が高額になります。
自己破産については、借金が全額免除されるので、その分、審査がかなり厳しくなっています。たとえば、免責不許可事由というものがあり、財産を隠したり壊したりして債権者に損害を与えた場合は、免責許可の決定を受けることができません。
また、自己破産はその他の債務整理と大きく異なる点として、手続き期間中は「破産者」となることです。職業や資格に制限が加えられたり、一時的に裁判所の許可なく転居することができなくなったりします。そのため、制限の加えられる職業についている場合、一時退職しなければならないということもあります。
しかし、免責許可の決定を受ければ「復権」をはたして、破産者として受ける制限の一切は解除されます。
もし、免責不許可事由に該当して、復権を果たすことができない場合は任意整理にてすべての借金を完済する、個人再生を利用することで、復権を果たすことができます。また、10年経過で自動的に復権をはたします。
また、自己破産をすると選挙権を失う、戸籍やパスポートに自己破産者であることが書かれる、自己破産者の子供は差別されるといった様々な風説がありますが、すべて嘘です。
戦前は自己破産者であると選挙権を失いましたが、現在の憲法では自己破産者であっても選挙権を失うことはありません。戸籍やパスポートに自己破産者であることは記載されません。親が自己破産をしたとしても、子供の進学就職結婚に影響を及ぼすことは、まずありえません。
もちろん、他の家族にも影響を及ぼすことはありません。保証人にでもなっていない限り、配偶者に借金の支払いを肩代わりしろという請求がくることはありません。
自己破産をすれば、2回官報に名前が載りますが、官報を熟読する一般人はまずいませんので、自己破産者である事実が周囲にばれる心配もないでしょう。復権さえ果たしてしまえば仕事に影響を与えることもありません。
債務整理と自己破産は状況に応じて選んでいくべき

自己破産は名前からして、ネガティブな印象を受けるものですが、他の債務整理とは異なり、借金の支払いが不能であり、なにをどうやっても完済することができなさそうならば、他の債務整理方法を利用するよりも、メリットはあります。

借金の額も原則5分の1まで少なくなりますので、返済ができなくなるということはまずないでしょう。ただ、それでも返済が厳しいのであれば自己破産の手続きを選ぶ方がいいでしょう。
債務整理と自己破産ともに、共通しているのは借金により破たんしてしまった経済の立て直しを図るものです。借金の返済額を少なくしたり、返済期間を長くしたり、そして、借金自体を帳消しにしてしまうなど、さまざまな方法があります。
そうなれば、民事再生(個人再生)か自己破産のどちらかを選んだ方が、弁護士などへの依頼料を節約することが可能です。

まとめ
債務整理と自己破産の違いですが、自己破産は税金などの納税義務のある借金に対しては免除にはならないものの、すべての借金が帳消しになります。しかし、そのためには自分名義の一定額の財産を処分しなければいけません。この一定額の財産とは20万円以上の財産を所有していると処分をしなければなりませんが、まったく財産がない、もしくは差押えが禁止されている財産しかない場合は、財産を処分することなく借金が全額免除になります。
一方、債務整理(任意整理・特定調停・民事再生(個人再生))は利息の減額、元本の減額はあるものの、かならず3年~5年以内に完済をしなければなりません。手続きについてですが、民事再生(個人再生)は煩雑ではありますが、自己破産のように何が原因で借金をつくったのかというのは問われません。
ただ、自己破産も債務整理の一つであり、ネガティブな印象はあるものの経済的な更生を促すものです。弁護士などの債務整理の専門家と話し合いをして、自身にあった債務整理の方法を見つけるのがいいでしょう。