債務整理の中でもっとも利用されているのは、任意整理です。任意整理=債務整理と呼ばれるほど、任意整理は一般的な債務整理の方法なのです。しかし、任意整理を調べていくと任意整理を必ずしもできるとは限らないという事実があります。
裁判所を介さずに利用することができる任意整理は楽ではありますが、裁判所を使わないので債権者は必ずしも任意整理に応じる必要はありません。
今回は任意整理ができないパターンとして、3つのパターンにまとめています。ぜひ、参考にしてください。
目次
任意整理ができない3つのパターン

任意整理は裁判所を通すことなくおこなうことのできる債務整理ではありますが、任意整理というのは必ずしもできるわけではありません。
- 債務者側に問題がある場合
- 弁護士が任意整理の交渉を拒否する場合
- 債権者が任意整理に応じない場合
この3つのパターンが考えられます。
基本的には、この3つのパターンのどれかが原因で、任意整理の交渉はまとまらず、もしくは門前払いをされてしまい任意整理に失敗してしまう可能性が高くなります。
1.債務者側に問題がある場合
債務者が任意整理をおこなったとしても、借金の金額や返済状況、そして返済能力などに課題がある場合、弁護士は依頼主の利益を最大限にする指名がありますので、民事再生(個人再生)や自己破産といった別の方法を検討するように説得をしなければなりません。
- 任意整理の要件にあてはまらない
- 返済状況や収入に課題がある場合
- 適切な交渉方法がとれない場合
任意整理の要件にあてはまらない
任意整理は裁判所を介さないしてきな和解交渉ですが、暗黙のルールは存在します。この暗黙のルールを債務者が満たせないのであれば、任意整理の交渉は頓挫してしまうでしょう。
借金の元本も減らそうと考えるのであれば、任意整理は意味のない債務整理になります。
3年~5年で完済をすることができない
任意整理は、借金の利息のカットとリスケジューリングを認めるけれど、元本は全額返済するというのが大原則です。
そのため、原則3年以内に元本を完済できる支払能力がないのであれば、任意整理をおこなうことは不可能です。
毎月の返済額について債務者の収入と支出の状況によって決まりますが、切り詰めた生活をさらに長期間継続する可能性があり、その生活を維持するのは困難であるといえます。
返済状況や収入に課題がある場合
元金が3年~5年以内に完済することができる場合であっても、債務者がこれまでの返済状況、そして収入によっては任意整理をすることができないこともあるのです。
一度も返済をしていない場合
たとえばですが、債務者が取引開始をしてから一度も返済をしていない場合は、任意整理は不可能となります。貸金業者の立場を考えた場合、このような場合に債務整理に応じてしまった場合、無償でお金を貸してしまったことと同義です。これは、商売になりません。まず、債務者には通常の返済を求めてきます。
一度でも返済をしていないのに任意整理をするというのは、めったにありませんが、取引期間が極端に短い場合でも、債権者は任意整理に応じてくれない可能性が高くなります。
安定した収入がない場合
債務者が無職であり、安定した収入がない場合は任意整理をしてリスケジューリングをしたとしても3年以内に完済することは難しいので、和解にするのも難しいでしょう。
適切な交渉方法がとれない場合
前述してきた任意整理の条件を満たしている場合であっても、債権者と債務者との交渉が適切におこなわれなければ任意整理をおこなうことは不可能です。
弁護士に依頼をせずに個人で交渉をしてしまう
任意整理の手続きを個人でおこなうということも実は不可能ではありません。自力でおこなう最大のメリットは弁護士や司法書士などへ支払う報酬を節約することができる点です。
しかしながら、個人で交渉をする場合、貸金業者から法律の素人として扱われてしまいますので交渉に応じてもらえないことも多くなります。
弁護士と司法書士の2つの専門家がいますが、その専門家でも少し高額にはなりますが、弁護士へ依頼することをおすすめします。司法書士は取り扱える案件の範囲に制限がありますので、いざというときには自分でどうにかしてくださいとなる可能性がゼロではないのです。
また、任意整理が不可能で民事再生(個人再生)か自己破産しか道がない場合、司法書士は書類の作成しかすることができず、代理人にはなれません。任意整理に失敗したことまで考えると、弁護士に依頼をしてしまった方が楽です。
極端な話、弁護士なら丸投げをすれば、あとは勝手に和解交渉を進めてくれます。
2.弁護士が任意整理の交渉を拒否する場合

弁護士や司法書士が受任を断ると任意整理をすることは難しくなります。では、弁護士や司法書士が受任を断るケースとはどのようなものがあるのでしょうか。
- 借金元本を最長5年で返済する見込みがない場合
- 仕事に就いていないなど、継続的な収入がない場合
- 任意整理の対象の借入について、ほとんど返済をしていない
- 任意整理の対象の借入先が、任意整理に応じない方針の業者である場合
- 依頼主と信頼関係が築けない場合
- 分割返済の期間や減額について無理な要求をした場合
- ビジネス色の強い法律事務所で、報酬がわりに合わないとき
弁護士には、受任義務というものがありません。つまり、依頼を受けるか断るかは、基本的に弁護士の自由となります。そのため、依頼者が弁護士を選ぶのと同様に、弁護士も依頼者を自由に選ぶことができるのです。
また、民法648条にあるとおり、弁護士の報酬は委任契約の後払いが原則になります。
そのため、任意整理が成立する見込みがなさそうな場合や、債務者との信頼関係が築けそうにない場合には、最初の時点で任意整理の依頼を断り、別の債務整理の方法を提案してくるのが原則です。
司法書士も同様です。
どうしても任意整理にしたい場合、複数の弁護士の意見を聞くのも手段のひとつです。
任意整理の和解成功が微妙な場合、弁護士の職務として債務者の利益が最大になるように、任意整理は無理なので、自己破産をした方が良いですと勧めるケースも多くなります。
なぜならば、弁護士は無理に任意整理をしたばかりに、結局、返済をすることができず自己破産を依頼しにくるケースを多くみているのです。原則として同じ債権者を相手に2回目の任意整理をすることはできません。
そのため、二度手間になるのであれば、最初から自己破産をしてしまった方がいいと、自己破産を強く勧める弁護士も存在します。これは正論です。
弁護士の中には家計簿を付けさせて、どのくらいの収入と支出があるのかを見てから任意整理にするべきか、それとも自己破産にするべきかを検討するというケースもあります。
しかし、中には多少返済がきつくても任意整理をやり遂げた債務者もいます。そのため、どうしても任意整理にしたい場合は、いくつかの弁護士事務所に相談をしてみて、様々な意見を聞くといいでしょう。
依頼主と信頼関係が築けない場合
弁護士が依頼主との信頼関係が築けない場合には、任意整理を断られたり、受任をしても途中で辞任されてしまったりする可能性があります。
たとえば、正直に開示してくださいといわれたのに、一部の預金口座やクレジットカードの存在を隠そうとしたり、準備してくださいとお願いした書類の提出をしなかったり、毎月、分割で支払うと約束をした着手金を支払わなかったりといった場合です。

ビジネス色の強い法律事務所で、報酬がわりに合わないとき
単純に報酬が割に合わない場合も受任してもらえないケースがあります。
弁護士の仕事も客商売になります。そして、法律上の受任義務がない以上は、単価の低い仕事を受けない、面倒な仕事はやらない、などの仕事を選ぶ弁護士がいるのは仕方ありません。
たとえばですが、着手金の分割払いはできないという法律事務所も存在します。もしくは、税金の差押えがある場合は受任しない、債権者が1社しかない場合は受任しない、といった業務方針の弁護士事務所もあります。
この場合も、その弁護士事務所とは縁がなかったものとして、いくつかの法律相談事務所を回るのがいいでしょう。根本的に任意整理が不可能でない場合、どこも受任してくれないというケースはめったにありません。
3.債権者が任意整理に応じない場合

任意整理とは、裁判所を介した法律上の手続きではありません。弁護士と債権者の2者の間で、自由に交渉をする私的な整理手続きになります。
そのため、任意整理には法律上の強制力というのはありません。相手の債権者が「応じない」といってしまえば、任意整理はそもそも成立しません。この点が自己破産や民事再生(個人再生)などの「法的整理」との大きな違いであるといえます。
- 特定の弁護士事務所に対して、任意整理の交渉に応じない場合
- すでに訴訟の準備をしている場合や、訴訟状が届いている場合
- すでに訴訟が終わっており、給与等の差押えができる状態の場合
- 抵当権や所有権留保など、ローンに担保権が設定されている場合
- 過去に同じ債務者に対して、任意整理に応じている場合
- 企業グループ全体で任意整理の交渉に応じない方針の場合
前述しましたが、任意整理には法律上の強制力がありません。そのため、債権者に応じる義務もありません。そのため、債権者側になんらかのメリットがなければ、わざわざ任意整理の交渉に応じることはないのです。
では、なぜ債権者は債務整理に応じるのか?
答えは、債権者としては、任意整理で元本だけでも回収したいと考えるからです。他に回収の手段がないわけです。
すでに弁護士が介入してしまっていると、任意整理の交渉が決裂してしまえば債務者は自己破産をする可能性が非常に高くなってしまいます。そうなってしまうと、債権者は1円も回収することができなくなってしまいます。
債権者としては、1円でも多く返済して欲しいというのが本音なので、「自己破産をされるよりいくぶんかマシ」という理由で、任意整理の交渉に応じるのです。
逆にいえば、他に回収する手段がある場合には、債権者は任意整理の交渉に応じる必要はありません。
もちろん、任意整理の特性として特定の債権者とは債務整理をしないというものがありますので、自動車ローンを任意整理の対象から外してしまえば問題とはなりません。
また、既に訴訟で判決をとっていて、給与などの差押えが可能な場合にも、債権者は交渉に応じる必要はなくなりますので、任意整理の交渉ができないケースが多くなります。なぜなら、強制執行をすることにより給与から直接回収することができるので、わざわざ任意整理に応じるメリットは皆無です。
すでに訴訟の準備をしている場合や、訴訟状が届いている場合
すでに、訴訟状が届いている場合も、任意整理の交渉は難しくなります。
いったん、訴訟を提起した以上、債権者としては裁判所に支払命令の判決を出して欲しいと考えます。もうすでに、裁判所に訴訟の申立費用を支払ってしまっているわけですし、せめて裁判上の和解に持ち込み、裁判所に和解調書を発行してもらいたいと思うはずです。
手遅れになるまえに弁護士に相談しましょうなどと言われるのは、これが原因です。
企業グループ全体で任意整理の交渉に応じない方針の場合
前述したような場合を除き、基本的には任意整理は債権者にとってもメリットはあります。しかしそれでも、任意整理の交渉に応じない業者も存在します。
また、取引履歴が浅い場合のみ任意整理の交渉に応じないという会社もあります。
取引年月が長い債務者であれば、今まで利息を支払ってもらっていますので、あとは元本だけ返してくれれば債権者の最終的な収支はプラスになります。
しかし、前述しましたが、ほとんど返済をしていない状態で任意整理をされてしまうと、債権者には利益が残らないので、取引履歴が浅い場合は任意整理の交渉には応じません。
また、特定の法律事務所に対してのみ、任意整理の交渉に応じないという会社も稀にあります。
まとめ
- 債務者側に問題がある場合
- 弁護士が任意整理の交渉を拒否する場合
- 債権者が任意整理に応じない場合
この3つのケースがあります。
債務者に返済能力さえあり、債権者が裁判所に訴状を提起していないのであれば、原則として任意整理ができないということはないでしょう。
しかし、3年~5年以内に返済する能力がない、つまり、収入がない状態では任意整理ではなく自己破産を勧められることになります。