債務整理を検討する方は、弁護士と司法書士どちらに依頼をするか悩んでしまうと思います。弁護士は敷居が高く、費用も高額ですから司法書士に依頼をしてしまうというケースもあると思います。弁護士と司法書士とでは、法的に対処できる範囲が異なります。そのため、特別な事情がない限りは弁護士をおすすめします。
目次
債務整理について
- 任意整理
- 特定調停
- 個人再生
- 自己破産
この4種類があります。
この中で、弁護士と司法書士に頼らずに実行することができるのは、特定調停と自己破産です。自己破産でも手続きが簡単な同時廃止事件のみなら個人でおこなうことができるでしょう。
弁護士と司法書士を雇う場合ですが、弁護士に比べて司法書士のできる仕事というのは限られてきます。弁護士は任意整理、個人再生、自己破産の債務整理で代理人として、依頼主の代わりにすべて交渉をこなせます。
対して、司法書士については、制限があるものの任意整理では代理人を務めることができます。しかし、個人再生、自己破産では書類作成の業務しかすることができません。
司法書士へ依頼をすれば、その分、弁護士へ依頼したときに比べ、自分で動かなければならないことが増えてくることは間違いないでしょう。
弁護士とは
司法試験に合格して司法修習を終えた人に対して弁護士資格が与えられます。
弁護士の業務というのは幅広く、社会生活で起こるさまざまなトラブルの解決サポート行い、依頼人の代理人として交渉する交渉権を持っています。法律の事務のみならず訴訟行為をおこなえる点も特徴といえます。
司法書士とは
司法書士とは、司法試験に合格し資格を得た人です。主に不動産の登記・供託の手続き、裁判所・検察庁・法務局に提出する書類の作成・提出代行をすることであり、原則として訴訟の代理人になることはできません。
つまり、普通の司法書士では任意整理の代理人になることはできないのです。
司法書士の制限について
司法書士の中で、法務省の研修を受けることで、認定司法書士になり、簡易訴訟の代理人を務めることができるようになりました。
認定司法書士がつくられた背景ですが、債務整理については弁護士の仕事だったものの、弁護士の数と債務整理の案件数が釣り合わなくなったため、弁護士の業務を補完する形として司法書士法が改正されたという背景があります。
そのため、任意整理に特化している司法書士の知識については、債務整理が専門ではない弁護士よりも、司法書士の方が詳しいというケースもあります。
しかし、最高裁の2016年6月27日判決により、司法書士は債権額が140万円以下の場合に限り、任意整理の手続きができると決まりました。
140万円の判定ですが、「個別の債権ごとの価額」を基準に計算をします。
また、1つの債権者から種類の違う債務が2口ある場合についても、それぞれの債権額が140万円以下であれば両方とも司法書士が代理人を務めることができます。しかし、たとえば、過払い金が140万円を超えている場合は司法書士が代理人を務めることができません。
司法書士は、下記の事件の相談・交渉・和解・代理をすることができません。
- 140万円を超える民事事件
- 控訴審(高等裁判所・地方裁判所)、上告審(最高裁判所・高等裁判所)
- 破産・民事再生等の申立て(地方裁判所)
- 強制執行(地方裁判所)
- 家事事件(家庭裁判所)
- 行政事件
- 刑事事件
任意整理・過払い金の場合
弁護士
任意整理や過払い金返還請求についてですが、弁護士の場合、貸金業者から個別に借金および過払い金が140万円以上あったとしても、限度額に制限なく任意整理や過払い金返還請求をおこなうことができます。
また、140万円を超える過払い金の回収についてですが、現在、消費者金融業者は資金的な体力がありません。そのため、払い渋りをします。払い渋りをしなければ倒産をする可能性があるからです。
司法書士は担当できる個別の債権額に140万円の限度があります。そのため、回収できる過払い金には制限が存在するのです。弁護士は前述のとおり制限なく納得いく金額を回収することができます。
司法書士
司法書士の場合140万円を超えなければ、代理権を行使することができます。
140万円以下であれば交渉をすることが可能です。
司法書士は、地方裁判所管轄事件の代理人になることができないので、過払い金回収の手段として地方裁判所に訴訟を提訴することができません。
相手側が争う姿勢をとり、簡易裁判所での争いでは訴訟がもつれてしまい、債権者が控訴に踏み切り地方裁判所へ舞台が移ることになった場合、司法書士では代理人を務めることができませんので、新たに弁護士を依頼しなければならなくなります。
そうなってしまうと、司法書士と弁護士へ二重に費用を支払う必要が出てきてしまい司法書士の優位性である安さがなくなってしまう可能性が非常に高くなります。
個人再生の場合
弁護士
個人再生は、裁判所に申立てを行い、借金を原則5分の1に減額する民事再生法という法的手続きです。
個人再生は個人が仕事の片手間で申立てるのは非常に難しいとされています。そのため、弁護士か司法書士に依頼をして書類作成の代行をしてもらうのが現実的な戦略となります。
弁護士は依頼主の利益が最大になるように働いてくれますが、個人再生委員の依頼主は裁判所であり、書類作成のアドバイスはしてくれますが、あくまでも中立的な立場であり、それ以上のことはしてくれません。つまり、選任されてもそこまでメリットがありません。
また、弁護士は申立てから裁判のやり取りまでをフルサポートしてくれますので非常に心強い存在であると思われます。複雑な裁判官との対応の代行なども期待できるので、弁護士に依頼をすると早期に手続きが完了する可能性が高くなります。
費用面についても抑えることができる可能性があります。
司法書士
弁護士の訴訟代理権は、最高裁までありますが、司法書士に与えられている訴訟代理権は140万円以下しか扱うことのできない簡易裁判所のみとされています。
個人再生は地方裁判所へ申立てることで実行されるものですから、司法書士には訴訟代理権がなく、依頼主の代理人を務めることができません。
書類作成は楽ですが、その他の手続きはすべて自分でこなさなければならず、個人再生委員が選任されるなど、個人再生については司法書士に依頼をするよりも弁護士に依頼をして、すべて代理でおこなってもらった方が、安く済むケースがあります。
自己破産の場合
弁護士
自己破産は、破産法という法律にもとづき、裁判所へ申立てることで実行される債務整理の一つです。
- 同時廃止事件
- 管財事件(少額管財事件)
この2種類に分けることができます。
同時廃止事件というのは、破産開始手続決定と同時に破産開始手続の廃止をするものであり、財産などが一切ない人が対象の自己破産の手続きになります。多くの場合、この同時廃止事件を狙って自己破産をします。
同時廃止事件については、個人的に手続きをしても成功する可能性がありますが、確実に同時廃止事件を成功させたいのであれば、弁護士へ依頼をした方がいいでしょう。
そして、管財事件の方ですが管財事件は一定額以上の財産を持っているものが自己破産をする場合の自己破産の手続きになります。持っている財産を換金処分して債権者へ分配するなどの手続きがあります。そのため、破産管財人が選任されます。この破産管財人が選任されるために、自己破産をするために裁判所へ納める費用が50万円~かかります。
50万円の予納金を納めることができなければ、自己破産をすることができません。
しかし、弁護士を雇っている場合、一部の地方裁判所ではありますが、少額管財事件といって裁判所へ納める予納金の額が20万円で済む自己破産の手続きになります。
管財事件の場合、すべての手続きが終了するまでに半年~1年程度はかかりますが、少額管財事件の場合は4ヶ月~半年程度で終了します。
自己破産の手続き中は破産者になり、さまざまな不利益を被ることから、早く自己破産の手続きが終了して、安く終わすためには弁護士を雇った方がメリットはあります。
司法書士
司法書士は、地方裁判所でおこなわれる破産手続きの代理権を持っていませんので、書類作成のサポート程度しか、実際問題することができません。また、司法書士を雇っていたとしても、弁護士を雇ったときのようなメリットはありません。
つまり、司法書士を雇ったとしても管財事件が少額管財事件になることもなければ、即日面接という制度も利用することができません。結果50万円の予納金を用意しなければ自己破産をすることができなくなります。
破産の手続中、裁判所へ出頭して、審尋などをおこないます。司法書士は代理権を持っていないので、依頼主の代わりに裁判官の質問に返答をすることができません。
弁護士と司法書士ならどちらに依頼をすればいいのか?
債務整理をおこなうに際して、弁護士と司法書士、どちらに依頼をするべきなのか悩んだ場合、弁護士にまずは相談をするというのが一番適切な方法であるといえます。ここで失敗してはいけないのが、債務整理を専門的におこなっている弁護士へ依頼をすることです。
弁護士へ依頼をした方が良い理由ですが、弁護士は法律上の代理行為に対して制限がありません。債権者が控訴したとしても、最高裁まで戦うことが弁護士ならできます。
また、個人再生の場合、個人再生委員の選任を止めることができるほか、自己破産の場合、少額管財事件や即日面接という弁護士でなければ利用することのできない制度を利用することができる点は強みであるといえます。
司法書士は費用面で弁護士より安く優位になるかもしれませんが、その分、自分でやらなければならない作業というものが増えてきますし、個人再生委員や少額管財事件を利用できないデメリットもあります。
個人再生委員が選任されてしまった場合、弁護士へ支払う報酬とほぼ変わらない額が必要となります。また、少額管財事件が利用できないのであれば50万円を予納金として集めなければならなくなります。
費用面の問題ですが、債務整理を専門に行っている弁護士については分割での後払いを認めているケースが多くなります。弁護士や司法書士に依頼をした時点で受任通知が送られます。受任通知を送られた債権者は借金の取立をすることができなくなりますので、借金で消えていた収入を弁護士の依頼料として積み立てることができるようになります。
そのため、資金面で悩む心配というのは少ないといえるでしょう。
司法書士は費用面での優位性はありますが、確実に債務整理をしたいのであれば、少し高くても弁護士へ依頼をしましょう。費用面での優位性といいましても、そこまで弁護士へ支払う報酬とは変わりありません。
まとめ
弁護士と司法書士ですが、弁護士は法律上代理行為に制限がないので、債務整理をおこなう場合、すべてのシーンで活躍をしてくれます。
一方、司法書士の場合、代理権に制限があり、活躍できる債務整理も任意整理に限られてきてしまいます。しかも140万円以下の債務整理のみでしか活躍することができません。
債務整理の個人再生や自己破産をするのであれば弁護士に依頼した方がメリットは多く、個人再生や自己破産の場合、最終的に支払う金額も司法書士と同じくらいになるケースが一般的です。
そのため、債務整理をしようと考えた場合、まずは債務整理に慣れた弁護士へ相談をしてみることをおすすめします