債務整理はさまざまな方法がありますが、その中でもっとも利用されているのが、任意整理です。任意整理は他の債務整理の方法と比較をするとデメリットが多くありません。そのため、生活の再建という面から考えるのであれば、利用しやすいという特徴があります。
任意整理はデメリットが少ないと前述しましたが、デメリットがないわけではありません。債務整理である以上、一定のデメリットが存在することを忘れてはいけません。
今回は、任意整理のデメリットについて紹介をします。
目次
債務整理について
- 任意整理
- 特定調停
- 民事再生(個人再生)
- 自己破産
この4つの種類があります。
この中で、任意整理は債務整理=任意整理と考えられるほど、もっとも利用される債務整理の1つであるといえます。
しかしながら、特定調停を利用すると過払い金返還請求をするためには別の手続きをとらなければなりません。また、作成した調停調書どおりに返済をしなければ容易に強制執行をされてしまうというデメリットがあります。つまり、債権者が差押えなどを簡単できてしまうわけです。
また、簡易裁判所へ申立てておこなうのですが、調停委員が債務整理の専門家ではないというケースが多くなります。そのため、債権者に有利な条件で調停調書を作られてしまう可能性があるわけです。そのため、特定調停については現在、あまり利用されていない、もしくは任意整理で話し合いが難航した場合に利用されるということが多くなります。
任意整理では、借金の返済は難しいけれども、自己破産を選択したくないという場合に利用するのが理想的な債務整理の方法です。特に、住宅ローンを抱えていて、住宅ローンについての特別な条項が設けられています。住宅ローンの返済が原因で生活が困窮している場合に利用するのが向いている債務整理です。
利用することで借金を原則5分の1まで減額することができます。減額した借金を3年間かけて返済をするというのが民事再生(個人再生)です。
ただし、借金の返済をすることが不可能であるということが裁判所にて判断されない限り、自己破産を利用することはできません。
また、自己破産を利用した場合、一般的に20万円以上の財産はすべて処分しなければなりません。差押禁止財産などを除き、20万円以上の価値のある自動車や預貯金、保険の返戻金などはすべて換価処分され、債権者に配当されます。
つまり、自己破産は財産を処分する代わりに、借金が免除されるのです。一時的に職業制限を受けるなどの他の債務整理の方法にはないデメリットがあります。しかし、選挙権などの公民権が停止されることはありません。
任意整理について
任意整理は、債務整理の顔といっていいほど、債務整理の中ではもっとも利用されるものです。裁判所を利用することなく、債権者との話し合いにより任意で債務を整理します。
また、民事再生(個人再生)や自己破産とは異なり、財産を守ることが可能です。民事再生(個人再生)や自己破産は、すべての債権者を対象にして債務整理をおこなうのに対して、任意整理は特定の債権者のみを対象に債務整理をすることができます。
たとえばですが、自動車ローンや住宅ローンがある場合、任意整理の対象から自動車ローンや住宅ローンを外すことが可能です。
もちろん、自己破産のように一定額以上の財産を持っていると必ず没収されるということもありません。
そして、任意整理は官報に掲載されません。
民事再生(個人再生)や自己破産を利用した場合、裁判所の決定内容が掲載されます。そのため、民事再生(個人再生)や自己破産を利用した人の名前や住所などが官報に掲載されるでしょう。
ただ、官報に名前が載ったとしても、官報は簡単に入手することができるものではありません。つまり、官報に名前が載ったとしても、本格的に調べなければ民事再生(個人再生)や自己破産をした記録を探しだすのは一般人には不可能なので、官報に名前が載ったとしてもそこまで問題にはなりません。
任意整理のデメリットについて
任意整理のメリットについては、別の記事で紹介をしました。
- 借金の圧縮率はあまり高くない
- 任意整理に応じてもらえない場合がある
- 個人信用情報機関に登録される
- 手続き後に必ず返済が必要
- 利用するためには収入が必要
- 強制執行を止めることができない
- 原則3年以内に完済しなければならない
- 銀行カードローンの場合、預金口座の残高と相殺される
1.借金の圧縮率はあまり高くない
まず、民事再生(個人再生)と自己破産の場合は、借金の「元本」を減額もしくは免除することができます。
民事再生(個人再生)の場合は、借金の元本を原則5分の1前後、減額することができます。そして、自己破産は非免責債権を除き借金を全額免除することが可能です。
では、任意整理の場合はといいますと、「元本」の減額はありません。
2010年以前は、たとえば50万円を借りた場合、利息制限法の上限利息は18%であり、出資法の上限利息は29.2%という二重の基準がありました。いわゆるグレーゾーン金利です。
しかし、任意整理で元本の減額をするためには、利息引き直し計算をして過払い金が発生している必要があり、借金の元本の減額は不可能です。つまり、任意整理をしたからといって借金が大幅に減るということは原則ないのです。
つまり、任意整理でできるのは、将来利息のカット、返済期間のリスケジューリング(貸付条件変更)しかありません。
2.任意整理に応じてもらえない場合がある
任意整理は、あくまでも私的な和解交渉になります。
裁判所を介して民事再生法、破産法にのっとりおこなわれる債務整理ではありません。そのため、債権者は減額や交渉に応じても応じなくても自由なのです。それゆえに、希望する毎月の返済額や将来利息のカットでの和解交渉が成立しないこともあります。
- 債務者が自己破産をしてしまった場合、1円も借金を回収することができなくなるので、3年~5年間のリスケジューリング(貸付条件変更)に応じたとしても損はありません。
- 実際に債務者にお金がない以上、どうしようもない
- 裁判をおこして差押えをしても、借金を回収する見込みが薄く、費用倒れになる可能性が高い
- 債務者が毎月返済できる金額の上限が決まっている以上、早々に和解をしないと自社の取り分は減ってしまう
近年では、消費者金融業者も過払い金返還請求ブームの煽りを受けて、業績悪化により将来利息のカットに応じない消費者金融業者も多く存在します。以前のように消費者金融業者も資金面の体力がなくなっているので、任意整理の交渉に応じない消費者金融業者もあります。
また、任意整理に応じないので、民事再生(個人再生)や自己破産をしてくださいという業者も存在します。
任意整理には、応じる法的義務がありませんので、債権者が対応しないケースは存在するのは仕方ありません。
3.個人信用情報機関に登録される
個人信用情報機関と呼ばれる機関が、
- CIC
- JICC
- KSC
この3社があります。
この状態をブラックリストに載ると表現します。
このブラック状態が日常生活の中でもっとも大きなデメリットになるでしょう。
また、ブラックリストに登録されるのは、任意整理をした本人に限られますので、自身がブラックリストに登録されたからといって、家族も同様にブラックリストには登録されません。そのため、家族はローンを組んだり借入をしたり、クレジットカードを作成することは問題なくおこなえます。
4.手続き後に必ず返済が必要
民事再生(個人再生)を利用した場合は、元本が原則5分の1減額されます。しかし、任意整理の場合は元本の減額はなく、元本を3年~5年かけて必ず完済しなければなりません。
5.利用するためには収入が必要
3年間安定した収入を得ることができない、たとえば、2年後に定年退職を迎えてしまうという場合、任意整理を選択するのは少しリスクが高くなります。再雇用されたとしても収入は減少するわけですから、生活が再び苦しくなる可能性が高くなるわけです。
5年の60回払いになると、さらに完済することができるのかわからなくなります。そのため、収入の減額が予想できるのであれば、任意整理ではなく元本の減額ができる民事再生(個人再生)の利用も視野にいれて債務整理の計画を立てるべきです。
6.強制執行を止めることができない
現時点で長期間滞納をしていて、債権者から支払督促や通常訴訟などによる法的措置をとられている場合、任意整理をすることはできません。
裁判所へ訴訟手続きをしているので、債権者にはいまさら裁判所を介さず任意整理をして和解するメリットはありません。裁判上の和解など法廷で和解をしてしまった方が債権者からしてみればメリットは多くなります。
また、裁判手続きが進行して、差押えや強制執行にまで事態が発展していると任意整理手続きにより、差押えや強制執行を中断する法的決定力はありません。そのため、すでに給与差押えなどの強制執行を受けている場合、原則として任意整理では手遅れです。例外はあり、必ずしも不可能ではありませんが現実問題難しいでしょう。
ここまで事態が進行している場合、民事再生法や破産法により強制執行を止めることができる、民事再生(個人再生)や自己破産を利用するといいでしょう。民事再生(個人再生)や自己破産は、裁判所へ申立てをおこない、開始決定と同時に給与差押えなどの強制執行手続きを法的に中断させることができます。また、民事再生(個人再生)や自己破産手続が完了すれば、強制執行の手続きを失効させることもできるでしょう。
7.原則3年以内に完済しなければならない
そのため、任意整理は3年間36回払いというのが原則と考えるべきです。3年間で完済でき、かつ生活が破たんしないようであれば任意整理を、完済が難しい、もしくは生活が破たんする可能性があるようならその他の債務整理を選ぶべきです。
8.銀行カードローンの場合、預金口座の残高と相殺される
銀行カードローンを利用している場合、弁護士に依頼をして受任通知を送付すると、その時点で銀行口座が凍結されてしまいます。つまり、使用することができなくなります。
そのため、受任通知を送付する前に銀行口座からお金を引き出し、さらにその口座が給与入金口座であるのならば、あらかじめ別の口座へ給与振込口座を変えておかねばなりません。
まとめ
- 借金の圧縮率はあまり高くない
- 任意整理に応じてもらえない場合がある
- 個人信用情報機関に登録される
- 手続き後に必ず返済が必要
- 利用するためには収入が必要
- 強制執行を止めることができない
- 原則3年以内に完済しなければならない
- 銀行カードローンの場合、預金口座の残高と相殺される
このようなものがあります。
特に問題のデメリットは、「借金の圧縮率はあまり高くない」でしょうか。原則、任意整理をしたとしても元金の減額というのはありません。また、3年で完済できるというのも任意整理を利用する上では重要な要件になります。3年で完済することができないのであれば、任意整理ではなく別の債務整理を検討するべきでしょう。
また、他の債務整理とは異なり、あくまでの私的な話し合いにより和解を目指すものになります。そのため、債権者が訴訟や強制執行などの法的な手続きを進めている場合、任意整理では対応することは難しいといえます。