任意整理に成功しても、完済できない人は約3割います。
失敗の原因として考えられるのが無理な返済スケジュールです。利用するのは簡単ですが、任意整理は原則3年~5年かけて返済をしなければなりません。任意整理のスケジュールを立てたものの、急な出費のせいで返済ができなくなるという人が意外に多くいるのです。
では、任意整理で話がまとまったのに、自己破産へ変更することは可能なのでしょうか? 今回は任意整理後、自己破産をするのが可能かどうかを紹介します。
目次
任意整理は3年~5年をかけて返済しなければならない
任意整理は、債務者と債権者の私的な和解交渉ですが和解が成立した場合、
任意整理をしても、借金の「元本」の減額はありません。過払い金が発生している場合、みなし弁済として、元本の減額にあてることができます。しかし、グレーゾーン金利の廃止にともない、過払い金により元本の減額をすることは現在できません。
利息がカットされて、返済期間が延びますので、月々の返済金額が少なくなります。
2回程度なら返済を待ってもらえる
任意整理の返済ですが、2回程度なら滞納を待ってくれます。任意整理の和解契約書には、多くの場合、返済を怠ったときの条項が記載されています。よくあるものとして「2回以上返済を連続して怠り、毎月の支払額の2回以上になったとき期限の利益を喪失する」というものです。
任意整理の場合、原則3年~5年間は借金の返済を優先した生活を送らなければなりません。その間、急な出費や失職、自己により仕事をできなくなる可能性はゼロではありません。理由がなんにしても、支払いに行き詰ってしまった場合、任意整理は失敗してしまいます。
返済スケジュールが厳しいので再度の任意整理は困難
2回目の任意整理の交渉を受けてくれる債権者の数は多くありません。債権者としては、借金の利息のカット、返済スケジュールの変更という破格の譲歩をしているのにも関わらず、さらに譲歩を求められても困ります。そのため、原則として2回目の任意整理は厳しくなります。不可能ではありませんが、現実的ではありません。
任意整理に失敗する理由
返済スケジュールに無理があった
毎月発生する余剰金すべてを借金の返済に充てた場合、その返済スケジュールを3年間続けるというのは、困難を極めます。たとえば、冠婚葬祭をはじめとして急な出費が発生した時点で、返済することができなくなります。また、娯楽をせずに3年間借金の返済するのも現実的ではありません。場合によっては反動で過度な浪費に走ってしまう可能性もあります。
そのため、1ヶ月~2ヶ月間の返済分程度の貯金ができるくらい余裕を持った返済スケジュールを立てなければ、3年間という長丁場を乗りきることは難しいのです。
また、多額のお金が急に入ってきた場合ですが、繰り上げ返済などを考える債務者がたまにいます。しかし、繰り上げ返済のメリットは利息の額を減らすことができる点にあります。すでに、支払い利息のカットをしている任意整理の場合、繰り上げ返済をしても、来月の返済額が少なくなるわけでもありませんし、メリットは何一つありません。そのため、繰り上げ返済をするのではなく、貯金などをしていざというときに備えるのです。
債務整理に慣れた弁護士であれば、無理な返済スケジュールを立てず、確実な返済スケジュールを立ててくれます。しかし、債務整理に不慣れな弁護士では余剰金をすべて返済に回す無理のあるスケジュールを立てる可能性がゼロではありません。
ギャンブルや浪費癖がある場合
任意整理を検討する方の中には、パチンコをはじめとしたギャンブルに依存している人が多くいます。近年ではソーシャルゲームの課金などにはまり借金を作るケースもあります。
このような方は、あればあるだけお金を使ってしまいます。そのため、返済ができなくなるリスクが高くなりますが、余剰金が出たらあえてすべて繰り上げ返済に利用するという手段もあります。ただし、なんらかの予想外の出費が発生した場合、このような返済方法をしていれば、任意整理の返済スケジュールは破たんする可能性は高くなります。
リストラや病気など
返済期間は3年~5年間です。この間、何が起こるかわかりません。
突然リストラされてしまう可能性もありますし、会社の倒産なんてこともあります。また、大きな事故や病気にかかる可能性もあります。
任意整理は支払いができなくなると失敗する可能性が高くなります。
仮に収入がなくなってしまった場合、返済が前提の任意整理をすることはできません。そのため、自己破産しか債務整理の方法はなくなります。
任意整理後、自己破産に切り替えることは可能なのか?
任意整理後に滞納しそうになったときは事前に担当の弁護士へ相談することがベストな選択です。今月返済することができない理由を説明して、来月に支払うことができるのであれば、任意整理の和解案を無効にすることなく返済を続けることができます。
しかし、支払うことができない場合、自己破産を勧められるのが一般的です。
それどころか、任意整理後に支払いが苦しくなり、自己破産を弁護士に再度依頼するというのは、弁護士の相談や依頼の中で珍しくない事例です。自己破産は法的整理であり、債権者の同意を必要とすることなく実行することができます。
そして、任意整理から自己破産に切り替える際には特別な手続きなどは一切必要ありません。普通に自己破産を申立てるのと同様の方法で、自己破産の手続きを進めることが可能です。
任意整理後に自己破産をすると免責許可を得るのが難しくなる?
自己破産は、免責許可を受けることで、借金の帳消しがおこなわれます。免責許可を得ることができない事由というものがあり、これを免責不許可事由といいます。
免責不許可事由は、破産法252条1項により記載されています。
第二百五十二条 裁判所は、破産者について、次の各号に掲げる事由のいずれにも該当しない場合には、免責許可の決定をする。
一:債権者を害する目的で、破産財団に属し、又は属すべき財産の隠匿、損壊、債権者に不利益な処分その他の破産財団の価値を不当に減少させる行為をしたこと。
二:破産手続の開始を遅延させる目的で、著しく不利益な条件で債務を負担し、又は信用取引により商品を買い入れてこれを著しく不利益な条件で処分したこと。
三:特定の債権者に対する債務について、当該債権者に特別の利益を与える目的又は他の債権者を害する目的で、担保の供与又は債務の消滅に関する行為であって、債務者の義務に属せず、又はその方法若しくは時期が債務者の義務に属しないものをしたこと。
四:浪費又は賭と博その他の射幸行為をしたことによって著しく財産を減少させ、又は過大な債務を負担したこと。
五:破産手続開始の申立てがあった日の一年前の日から破産手続開始の決定があった日までの間に、破産手続開始の原因となる事実があることを知りながら、当該事実がないと信じさせるため、詐術を用いて信用取引により財産を取得したこと。
六:業務及び財産の状況に関する帳簿、書類その他の物件を隠滅し、偽造し、又は変造したこと。
七:虚偽の債権者名簿(第二百四十八条第五項の規定により債権者名簿とみなされる債権者一覧表を含む。次条第一項第六号において同じ。)を提出したこと。
八:破産手続において裁判所が行う調査において、説明を拒み、又は虚偽の説明をしたこと。
九:不正の手段により、破産管財人、保全管理人、破産管財人代理又は保全管理人代理の職務を妨害したこと。
十:次のイからハまでに掲げる事由のいずれかがある場合において、それぞれイからハまでに定める日から七年以内に免責許可の申立てがあったこと。
イ 免責許可の決定が確定したこと 当該免責許可の決定の確定の日
ロ 民事再生法(平成十一年法律第二百二十五号)第二百三十九条第一項に規定する給与所得者等再生における再生計画が遂行されたこと 当該再生計画認可の決定の確定の日
ハ 民事再生法第二百三十五条第一項(同法第二百四十四条において準用する場合を含む。)に規定する免責の決定が確定したこと 当該免責の決定に係る再生計画認可の決定の確定の日
十一:第四十条第一項第一号、第四十一条又は第二百五十条第二項に規定する義務その他この法律に定める義務に違反したこと。
- 債権者を害する目的で財産を減少させる
- 不利益な条件で債務を負担した場合
- 一部の債権者に借金の返済をして、他の債権者を害した
- ギャンブルや浪費・射幸行為で借金を作った
- 自己破産および個人再生の給与所得者等再生の再生計画の決定が確定した日から7年以内
免責不許可事由に該当している場合、たとえばギャンブルが原因の借金の場合でも、破産手続開始決定に至った経緯やそのほかの事情などが考慮され、免責許可が相当であると裁判所が認めた場合、免責を受けることができます。これは裁量免責とよばれ、破産法252条2項にて決められています。
一生懸命、返済しようとしたけれど、返済をすることが結果として難しく自己破産を選択した場合、もしくは債権者が任意整理に応じなかったことが原因で自己破産をした場合、正当な権利を行使したものとして免責許可に影響はあたえません。返済をしたという事実があれば、免責許可を得やすくなります。
任意整理から自己破産に切り替えるメリットについて
任意整理から自己破産に変更するメリットですが、任意整理で解決することができない借金問題でも比較的容易に解決することができる点にあります。
任意整理では、利息のカット、返済期間のリスケジュールがメインであり、借金元本の減額はありません。
また、自己破産は任意整理とは異なり、債権者の同意を必要とすることなく債務整理を実行することができます。そして、債権者の中には、任意整理の交渉を持ちかけるタイミングが遅いと、裁判所に申立てをおこない給与の差押えなどの強制執行をおこなうケースがあります。
中には、任意整理の交渉を持ちかけると交渉に応じず、強制執行の手続きをする債権者もいます。
任意整理から自己破産に切り替えることで、債権者は給与の差押えをすることができなくなるので、まったく交渉に応じない債権者がいる場合、任意整理よりも自己破産に切り替えた方がメリットはあります。
任意整理後に自己破産に切り替えるデメリット
持ち家などの換価処分できる財産を所有したまま自己破産をすると、管財事件もしくは少額管財事件という手続きになり、裁判所へ納める予納金の額が最低20万円必要になります。
高額な弁護士費用
任意整理と比較をすると、任意整理よりも高額な弁護士費用が発生します。任意整理の交渉をおこなっているので、任意整理の費用+自己破産の弁護士費用がかかることになります。
破産者になり制限を受ける
自己破産に切り替えることで、免責決定を受けるまでの間は、破産者となります。破産者は資格の制限を受け、たとえば、弁護士・司法書士・保険の外交員・警備員などの職に就くことができなくなるのです。
管財事件になれば、破産者の期間は長くなります。その間、移動の制限などを受けるケースもあります。
任意整理にするか、自己破産にするか、当初の選択が重要
任意整理を選択してから、自己破産に切り替えることは可能です。しかし、任意整理後に和解案に沿って債権者へ支払ったお金は無駄になってしまいます。
自己破産をはじめから選択していれば、その分を貯金に回せることができます。
相談は無料としている弁護士事務所は多いので、複数の事務所を回り、自分に向いているのは自己破産なのか、任意整理なのか始めの段階で決めておくといいでしょう。
まとめ
任意整理後に約3割の人が、自己破産にしています。
任意整理後に自己破産をすることは、法的には問題ありません。
メリットとデメリットがありますが、短期間で借金を整理するという点のみを考えるのであれば、任意整理から自己破産に切り替えた方がいいでしょう。
最初の段階で、過信することなく弁護士と話し合いをして任意整理後にやっぱり自己破産でとならないようにしましょう。