債務整理の種類として、「任意整理」と「民事再生(個人再生)」というものがあります。借金の減額率や生活状況や残したい財産により、選ぶべき債務整理の方法が異なってきます。今回は、任意整理と民事再生(個人再生)を比べて、どのような特性があるのかを把握していきましょう。
民事再生(個人再生)を選ぶべきなのか、任意整理を選ぶべきなのか、どのような基準で選択すればよいのかを紹介もします。
目次
任意整理と民事再生(個人再生)
任意整理
任意整理とは、弁護士や司法書士に依頼をして、債権者と直接交渉をする債務整理の方法です。債務整理の中ではもっとも敷居が低く、裁判所などへ申立てるなどの手続きは必要としません。
任意整理の特徴は、債務整理をしたい債権者を自分で任意に選ぶことができる点にあります。たとえば、A社、B社、C社から借金をしている場合、A社とB社とは任意整理をおこない、C社とは任意整理をおこなわないという選択もすることができるわけです。
そのため、自動車ローンが残っていたり、住宅ローンが残っていたりする場合は、それらの債権者を任意整理の対象から外すことができるので、自動車も住宅も没収されずに済むわけです。
任意整理の費用
アディーレ法律事務の場合、
- 1社あたり43,200円
となります。
民事再生(個人再生)
債権者には反対する機会が与えられていますが、反対する債権者は多くないので、基本的に債権者の同意を必要とせずに、債務整理を断行することができるといえます。
裁判所を利用しておこなう手続きになりますので、官報という国が発行する公報に名前が掲載されますが、一般人で官報を手に入れて毎日熟読するという人はいませんので、官報が原因で周囲に民事再生(個人再生)を利用したことがばれる心配というのはほぼないでしょう。
民事再生(個人再生)の場合、債務整理の相手が任意整理とは異なりすべての債権者が対象になります。そのため、自動車ローンを支払っている途中の場合、自動車を没収されるでしょう。
民事再生(個人再生)は、大きく分けると2つに分類することができます。
- 小規模個人再生
- 給与所得者再生
それぞれ、内容が異なります。
小規模個人再生
民事再生(個人再生)は、一般的に小規模個人再生を利用します。
利用条件として、
- 個人であること
- 住宅ローン以外の借金総額が5,000万円以下であること
- 継続して収入を得る見込みがあること
- 原則として、3年間で最低弁済額か、保有している財産の合計額(清算価値)のいずれか多い方を支払うことができること
- 債権者数の2分の1以上の反対がなく、反対した債権者の債権額の合計が全債権総額の2分の1を超えないこと
給与所得者再生
あまり使用されない方法です。
- 給与所得者で、収入の変動が少ない場合
- 再生計画案に対する債権者の同意は不要
- 可処分所得の2年分が最低弁済額・清算価値より多い場合、その金額の支払が条件
- 7年以内の再申立てや、自己破産の免責決定確定日から7年以内の申立てはできない
民事再生(個人再生)の弁護士費用
アディーレ法律事務所の場合、
- 住宅ローン特則あり:518,400円
- 住宅ローン特則なし:410,400円
となります。
任意整理と民事再生(個人再生)の借金の減額幅
任意整理
また、任意整理と同時に過払い金返還請求をおこなうことで、過払い金が発生しているのであれば、それは「すでに返済したもの」として、元本の減額をすることが可能です。利息制限法による引き直し計算という方法ですが、長期間にわたり借金をしている場合、高額な過払い金が発生している可能性があります。つまり、大幅な借金の減額効果を期待することができるわけです。
民事再生(個人再生)
個人再生は、民事再生法231条2項3項により、表のような最低弁済基準を設けています。
借金の総額 | 最低弁済額の基準 |
~100万円 | 全額 |
100万円~500万円以下 | 100万円 |
500万円~1500万円以下 | 債務額の5分の1 |
1500万円~3000万円以下 | 300万円 |
3000万円~5000万円以下 | 債務額の10分の1 |
上記の表が民事再生法で決められた最低弁済額の基本であり、多くの場合、借金の総額が1000以下で収まるでしょうから、「債務額の5分の1」の圧縮が期待できると考えてもらって結構です。
また、借金総額が100円以下の場合は減額はなし、借金総額が100万円~500万円は100万円まで減額、500万円~1500万円以下なら5分の1となります。
民事再生(個人再生)は、借金の総額が大きくなるほど、減額される額も大きくなります。
ただし、「清算価値保障の原則」により、清算価値が最低弁済基準を上回る場合は清算価値が最低弁済額になります。
そして、清算価値保障の原則とは、個人再生の再生計画において債務者が清算価値以上の返済を債権者に対して保障する原則のことです。
これは、債権者保護のための原則です。清算価値以下の返済しかされないのであれば、自己破産をしてもらった方が民事再生(個人再生)をされるよりも圧倒的によく、民事再生(個人再生)を適用する理由がありません。
そのため、清算価値保障の原則により、自己破産よりも民事再生(個人再生)をしてもらった方がメリットはあるとしているのです。
ただし、現実的な民事再生(個人再生)の運用として、清算価値が最低弁済基準を上回ることはありません。なぜなら、債務整理をするくらい財産がないのですから、高額な財産を持っているはずがありません。
債務の対象について
債務の対象についてですが、特定の債権者のみに絞り、債務整理をすることができるかということです。
任意整理
前述しましたが、任意整理というのは、法律上の制度にのっとって進められる債務整理ではありません。あくまでも、私的な和解交渉になりますので、特定の債権者だけを選んで、除外した、任意整理をしたりすることが可能です。
民事再生(個人再生)
それでは、民事再生(個人再生)の場合はといいますと、民事再生法にのっとりおこなわれていますので、債権者平等の原則により、全ての債権を裁判所に申告して、すべてを債務整理の対象にしなければなりません。
特定の債権者のみをはずして債務整理をしてしまいますと、その債権者は貸しているお金が減額されるわけではありませんので、得をすることになります。これでは、債権者平等の原則に背いてしまいます。
ただし、住宅ローンだけは別であり、住宅ローン特則(住宅資金特別条項)を利用することで住宅ローンを債務整理の対象から外すことが可能です。
家族にばれる可能性はどのくらいか?
債務整理をはじめとした借金の問題は、なるべく家族にしられたくなく、知られないまま債務整理を完了させたいと考える方が非常に多くいます。
では、任意整理と民事再生(個人再生)がどのくらい家族にばれやすいのかを見ていきましょう。
任意整理
民事再生(個人再生)
民事再生(個人再生)の場合は、配偶者にばれずに債務整理をておこなうというのは非常に難しいといえます。なぜなら、配偶者に収入がある場合、家計全体の収入を把握するために、裁判所へ給与明細を提出しなければならないのです。
また、預金通帳や源泉徴収票、保険の返戻金の証明書などの準備も必要であり、裁判所からの郵送物というのもあります。そのため、同居している配偶者にばれないように債務整理を済ますというのは現実的に困難を極めるといえます。
職場にばれる可能性はどのくらいか?
債務整理については非常にプライベートな問題です。また、債務整理をしたことがばれて会社に居づらくなるというケースもあります。任意整理と民事再生(個人再生)をする場合、会社にばれる可能性についてみていきましょう。
任意整理
会社からお金を借りて、それを任意整理しようとしない限り、まずばれることはないでしょう。弁護士には守秘義務がありますので、弁護士からばれるという心配もありません。
ただし、任意整理をはじめとした債務整理の手続きを一切していないのであれば、債権者が訴訟を起こし給与の差押えなどをしてきますので、それが原因でばれるということはあるでしょう。
民事再生(個人再生)
職場や共済組合からお金を借りている場合、民事再生(個人再生)を利用すると債務整理の対象になってしまい、職場から借りたお金を減額することになります。
ただ、そのような状態以外の場合で、民事再生(個人再生)を利用したことが職場にばれるということは、まずないでしょう。
連帯保証人への影響
連帯保証人とは、主債務者と同等の返済義務を負った保証人です。主債務者が返済できなくなった場合、連帯保証人へ請求がいくことになります。
そのため、債務整理を考えるのであれば、連帯保証人への影響についてもじっくりと考慮しなければなりません。
任意整理
任意整理は、連帯保証人付きの保証債務を債務整理の対象から外すことができます。また、任意整理は元本自体を減額するわけではなく、利息のカットやリスケジュールが主な効果なので、きちんと主債務者が完済をしておけば、連帯保証人への影響は皆無であるといえます。
民事再生(個人再生)
500万円を減額して100万円になったのに、連帯保証人は500万円を支払う必要があります。債権者が100万円多く受け取るというわけではなく、主債務者と連帯保証人は同時に返済をはじめ、2人の合計が債務額に達した時点で返済が完了するというややこしい仕組みとなっています。
また、連帯保証人への請求は一括返済が原則ですが、交渉により分割返済になるケースが一般的です。さらに連帯保証人は後日自分が支払った金額を主債務者へ求償(返済を求めること)することはできません。
信用情報機関の登録の違い
つまり、ブラックリストに載る期間のことです。ブラックリストに載ってしまいますと、その間、クレジットカードの審査やカードローン(キャッシング)の審査などに通りにくくなります。
任意整理
任意整理をおこなった場合でも、事故情報として信用情報機関に登録されてしまいます。
この5年は、完済してから5年間なので、3年間で完済をしたのであれば、合計8年間はブラックリストにのっていることになります。
民事再生(個人再生)
これも、完済をしてから10年になりますので、13年間は新規でローンを組むのが困難になる可能性が非常に高くなります。
官報に掲載される
官報とは、国が発行する公報です。前述した信用情報機関や金融機関などは独自に官報を収集して、データベースを作っています。
任意整理
任意整理をおこなったとしても、あくまでも私的な和解交渉になりますので、官報には名前が掲載される心配はありません。
民事再生(個人再生)
民事再生(個人再生)を利用する場合、民事再生法にのっとり裁判所が主導しておこなう手続きになりますので、官報に名前が掲載されます。
任意整理を選ぶべきか、民事再生(個人再生)を選ぶべきか判断基準とは?
任意整理をするべきか、民事再生(個人再生)を利用するべきかの判断基準についてみていきましょう。
まず、任意整理も民事再生(個人再生)も結局は3年をかけて返済をしていく必要があるものです。そのため、一定の収入が確実になければ任意整理か民事再生(個人再生)は利用できません。
そして、任意整理と民事再生(個人再生)の借金の元本の圧縮率から考えて、毎月の収入での返済額が大きくなりすぎて、借金の返済をするととても生活が立ち行かないという場合に民事再生(個人再生)の利用をしましょう。
また、住宅ローンがあり、住宅ローンの返済が厳しい場合は任意整理ではなく、民事再生(個人再生)を利用することをおすすめします。
- 毎月の返済額が多すぎる場合
- 100万円以上の借金がある場合
- 住宅ローンの返済で困った場合
この3点を満たしているのであれば、任意整理より効力のある民事再生(個人再生)の利用がもっとも理にかなっていると考えます。
まとめ
任意整理より効力が強く、自己破産より効力が弱いのが民事再生(個人再生)になります。
任意整理と民事再生(個人再生)を比較した場合、
任意整理 | 民事再生(個人再生) | |
借金の減額率 | 利息のみ | 最低弁済基準による元本の減額 |
債権者を選べる | 選べる | 選べない |
家族にばれる | ばれない | ばれる可能性大 |
職場でばれる | ばれない | ばれない |
連帯保証人への影響 | 少し | 大きい |
信用情報機関への影響 | 5年 | 5年~10年 |
官報に載る | 載らない | 載る |
手続き | 簡単 | 複雑 |
弁護士費用 | 安い | 高い |
このようになります。
- 毎月の返済額が多すぎる場合
- 100万円以上の借金がある場合
- 住宅ローンの返済で困った場合
このようになります。